1.大気汚染防止法 大気汚染防止法の概要(固定発生源) 1.目的 わが国では、大気環境を保全するため、昭和43年に「大気汚染防止法」が制定された。この法律は、大気汚染に関して、国民の健康を保護するとともに、生活環境を保全することなどを目的としている。 2.制度の概要 人の健康を保護し生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として、「環境基準」が環境基本法において設定されており、この環境基準を達成することを目標に、大気汚染防止法に基づいて規制を実施している。 大気汚染防止法では、固定発生源(工場や事業場)から排出又は飛散する大気汚染物質について、物質の種類ごと、施設の種類・規模ごとに排出基準等が定められており、大気汚染物質の排出者等はこの基準を守らなければならない。
3.ばい煙の排出規制 「ばい煙」とは、物の燃焼等に伴い発生するいおう酸化物、ばいじん(いわゆるスス)、有害物質(1)カドミウム及びその化合物、2)塩素及び塩化水素、3)弗素、弗化水素及び弗化珪素、4)鉛及びその化合物、5)窒素酸化物)をいう。大気汚染防止法では、33の項目に分けて、一定規模以上の施設が「ばい煙発生施設」として定められている。 ばい煙の排出基準は、大別すると次のとおり。 一般排出基準:ばい煙発生施設ごとに国が定める基準 特別排出基準:大気汚染の深刻な地域において、新設されるばい煙発生施設に適用されるより厳しい基準(いおう酸化物、ばいじん) 上乗せ排出基準:一般排出基準、特別排出基準では大気汚染防止が不十分な地域において、都道府県が条例によって定めるより厳しい基準(ばいじん、有害物質) 総量規制基準:上記に挙げる施設ごとの基準のみによっては環境基準の確保が困難な地域において、大規模工場に適用される工場ごとの基準(いおう酸化物及び窒素酸化物) これら排出基準には、量規制、濃度規制及び総量規制の方法がある。 ばい煙の排出規制 (1)排出制限、改善命令・使用停止命令 大気汚染防止法は、ばい煙排出者に対し、排出基準に適合しないばい煙の排出を禁止し、故意、過失を問わず違反者に対して刑罰を科せられることとなっている。 また、都道府県知事又は大気汚染防止法で定める政令市の長(以下このページでは「都道府県知事等」といいます。)は、排出基準違反のばい煙を継続して排出するおそれがあると認めるときは、当該ばい煙の排出者に対し、ばい煙の処理方法等の改善や一時使用停止を命令することができる。 (2)設置・変更の届出、計画変更命令 必要な措置を事前に講じさせるために、ばい煙発生施設を新たに設置又は構造等の変更をしようとする者は、あらかじめ(60日前まで)、管轄都道府県知事等に所定の事項を届け出なければならない。都道府県知事等は、その内容を審査し、当該施設が排出基準に適合しないと認めるときは、その届出を受理した日から60日以内に限り、計画の変更又は廃止を命ずることができる。 (3)測定義務、立入検査 ばい煙排出者は、施設から排出されるばい煙量又はばい煙濃度を測定し、その結果を記録しておかなければならない。また、都道府県又は大気汚染防止法で定める市(以下このページでは「都道府県等」といいます。)の職員は、ばい煙排出者が排出基準を守っているかチェックするため、工場・事業場に立ち入ることや必要な事項の報告を求めることができる。 (4)事故時の措置 故障、破損その他の事故が起こり、ばい煙又は特定物質が多量に排出されたとき、排出者は直ちに応急の措置を講じ、復旧に努めるとともに事故の状況を都道府県知事等に通報しなければならない。都道府県知事等は、事故により周辺の区域における人の健康に影響があると認めるときは、排出者に対して、必要な措置をとるようを命ずることができる。 なお、「特定物質」とは、物の合成、分解その他の化学的処理に伴い発生する物質のうち、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずるおそれがある物質で、次の28物質が定められている。 (1)アンモニア、(2)弗化水素、(3)シアン化水素、(4)一酸化炭素、(5)ホルムアルデヒド、(6)メタノール、(7)硫化水素、(8)燐化水素、(9)塩化水素、(10)二酸化窒素、(11)アクロレイン、(12)二酸化いおう、(13)塩素、(14)二硫化炭素、(15)ベンゼン、(16)ピリジン、(17)フェノール、(18)硫酸(三酸化硫黄を含む。)、(19)弗化珪素、(20)ホスゲン、(21)二酸化セレン、(22)クロルスルホン酸、(23)黄燐、(24)三塩化燐、(25)臭素、(26)ニッケルカルボニル、(27)五塩化燐、(28)メルカプタン (5)事業者の責務 事業者は、ばい煙の規制に関する措置のほか、その事業活動に伴うばい煙の大気中への排出の状況を把握するとともに、当該排出を抑制するため、必要な措置を講ずるようにしなければならないとなっている。 (6)緊急時の措置 大気汚染が深刻な状態(政令で定めるレベル)になったときは、都道府県知事又は北九州市の長は、一般にその事態を周知させるとともに、ばい煙排出者に対して、排出量の削減を要請することとなっている。 4.発性有機化合物の排出抑制 「揮発性有機化合物」とは大気中に排出され、又は飛散した時に気体である有機化合物(浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質を除く。)をいう。大気汚染防止法では、9の項目に分けて、一定規模以上の施設が「揮発性有機化合物排出施設」として定められている。 揮発性有機化合物の排出及び飛散の抑制に関する施策は、揮発性有機化合物の排出の規制と事業者が自主的に行う揮発性有機化合物の排出及び飛散の抑制のための取組とを適切に組み合わせて効果的に実施することとされている。 (1)基準遵守義務、改善命令・使用停止命令 揮発性有機化合物排出者は、排出基準を遵守する義務がある。 また、これに違反するものに対し、都道府県知事等は、揮発性有機化合物の処理の方法の改善等や使用の一時停止を命ずることができる。 (2)設置・変更の届出、計画変更命令 必要な措置を事前に講じさせるために、揮発性有機化合物排出施設を新たに設置又は構造等の変更をしようとする者は、あらかじめ(60日前まで)、管轄都道府県知事等に所定の事項を届け出なければならない。都道府県知事等は、その内容を審査し、当該施設が排出基準に適合しないと認めるときは、その届出を受理した日から60日以内に限り、計画の変更又は廃止を命ずることができる。 (3)測定義務、立入検査 揮発性有機化合物排出者は、施設から排出される揮発性有機化合物濃度を測定し、その結果を記録しておかなければならない。また、都道府県等の職員は、揮発性有機化合物排出者が排出基準を守っているかチェックするため、工場・事業場に立ち入ることや必要な事項の報告を求めることができる。 (4)緊急時の措置 大気汚染が深刻な状態(政令で定めるレベル)になったときは、都道府県知事又は北九州市の長は、一般にその事態を周知させるとともに、揮発性有機化合物排出者に対して、排出濃度の減少等を要請することとなっている。 5.粉じんの排出規制 「粉じん」とは、物の破砕やたい積等により発生し、又は飛散する物質をいう。このうち、大気汚染防止法では、人の健康に被害を生じるおそれのある物質を「特定粉じん」(現在、石綿を指定)、それ以外の粉じんを「一般粉じん」として定めている。 一般粉じんに係る規制: 破砕機や堆積場等の一般粉じん発生施設の種類ごとに定められた構造・使用・管理に関する基準 特定粉じん(石綿)に係る規制: 発生施設: 工場・事業場の敷地境界における大気中濃度の基準(1リットルにつき石綿繊維10本) 排出等作業: 吹付け石綿等が使用されている建築物その他の工作物を解体・改造・補修する作業における作業基準 (1)基準遵守、基準適合命令・使用停止命令 粉じん発生施設を設置しようとする者や特定粉じん排出者などは、法律に定められた基準を遵守する義務があり、これらを違反する者に対し、都道府県知事等は、基準の適合や一時使用停止を命ずることができる。 (2)届出、計画変更命令 一般粉じん発生施設、特定粉じん発生施設を新たに設置又は構造等の変更をしようとする者もしくは特定粉じん排出等作業を行おうとする者は、事前に(特定粉じん発生施設;60日前、特定粉じん排出等作業;14日前)、管轄都道府県知事等に所定の事項を届け出なければならない。また、特定粉じん規制については、都道府県知事等は届出内容を審査し、当該施設等が基準に適合しないと認めるときは、計画の変更等を命ずることができる。 (3)測定義務、立入検査 特定粉じん発生施設を設置している者は、工場等の敷地境界における石綿濃度を測定し、その結果を記録しておかなければならない。また、都道府県等の職員は、粉じん発生施設を設置しようとする者や特定粉じん排出者などが基準を守っているかチェックするため、工場・事業場に立ち入ることや必要な事項の報告を求めることができる。 6.有害大気汚染物質の対策の推進 「有害大気汚染物質」とは、低濃度であっても長期的な摂取により健康影響が生ずるおそれのある物質のことをいい、科学的知見の充実の下に、将来にわたって人の健康に係る被害が未然に防止されるよう施策を講じることとされている。 (1)対象物質 該当する可能性のある物質として248種類、そのうち特に優先的に対策に取り組むべき物質(優先取組物質)として次の23種類がリストアップされている。 (1)アクリロニトリル、(2)アセトアルデヒド、(3)塩化ビニルモノマー(別名:クロロエチレン、塩化ビニル)、(4)塩化メチル(別名:クロロメタン)、(5)クロム及び三価クロム化合物、(6)六価クロム化合物、(7)クロロホルム、(8)酸化エチレン、(9)1,2-ジクロロエタン、(10)ジクロロメタン(別名:塩化メチレン)、(11)水銀及びその化合物、(12)ダイオキシン類*、(13)テトラクロロエチレン、(14)トリクロロエチレン、(15)トルエン、(16)ニッケル化合物、(17)ヒ素及びその化合物、(18)1,3-ブタジエン、(19)ベリリウム及びその化合物、(20)ベンゼン、(21)ベンゾ[a]ピレン、(22)ホルムアルデヒド、(23)マンガン及びその化合物 *:ダイオキシン類はダイオキシン類対策特別措置法に基づき対応している。 (2)各主体の責務 大気汚染防止法では、有害大気汚染物質対策の実施に当たり、各主体の責務を定めている。 国の施策:科学的知見の充実、健康リスク評価の公表等 地方公共団体の施策:汚染状況の把握、情報の提供等 事業者の責務:排出状況の把握、排出抑制等 国民の努力:排出抑制等 (3)排出抑制基準 有害大気汚染物質については、十分な科学的知見が整っているわけではないが、未然防止の観点から、早急に排出抑制を行わなければならない物質(指定物質)として、1)ベンゼン、2)トリクロロエチレン、3)テトラクロロエチレンの3物質が指定され、それぞれ排出抑制基準が定められている。
2.事業者のための大気汚染防止法の概要早わかりビデオ
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